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大阪高等裁判所 昭和42年(行コ)20号 判決 1969年7月08日

控訴人

北畑静子

平山芳明

被控訴人

西成税務署長

松本富太郎

指定代理人

鎌田泰輝

外四名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする

事実《省略》

理由

一当裁判所も、控訴人主張の貴石及び貴金属製品等の古物も旧物品税法ないし物品税法所定の課税物品に該当し、したがつて、右古物が右課税物品に該当しないことを理由とする控訴人の本訴請求は、これを認容し得ないものと判断するものであり、その理由は、左記のとおり附加し、一部削除するほかは、原判決の説示理由と同一である(但し、原判決三〇枚目表二行目の「二四号証」の次に「当審証人北畑実の証言」を加筆する。)から、ここにこれを引用する。

(一)  控訴人は、物品税の本質は、創造された価値―商品が流通過程におかれる一時点をとらえ、これを課税原因としては握するところにあり、したがつて一度課税された物品については、再び価値の創造が添加されない限り、何回移出、小売が繰り返されても、物品税の課税対象にはならない旨主張するが、物品税の本質は、創造された価値―商品それ自体を課税原因としては握するものではなく、それは、原判決もいう如く、消費税の本質に基づき個々の物品の使用、消費という事実から、そこに示される消費者の所得の存在を推認し、これを担税力とみて課税するところにその本質があるものというべきであり、したがつて、控訴人のいうように、新たな価値の創造添加の事実がなくても、いやしくも右の如き所得の存在、担税力を顕示する使用、消費、これにつながる小売、移出または取引行為が存在する以上それが何回繰り返されようとも、その都度課税されるのは当然というべきであつて、控訴人の右主張は、上記の如き物品税の本質を誤り解した結果によるものというほかはなく、失当たるを免れない。

(二)  次に、控訴人は、控訴人主張の如き旧物品税法ないし物品税法改正の変遷、経過をみれば、ひとしく古物の売買でありながら、移出課税方式をとる貴金属製時計については移出行為がないから課税対象とならず、小売課税方式をとるその余の貴金属製品については小売行為があるから課税対象となるというが如き、右両者の間にその本質を異にするような法解釈は許されない旨主張する。

しかしながら、本来叙上の如き物品税の本質からすれば、消費者の消費行為に直近した段階で課税する小売課税方式をもつて最も理想的な課税方式とするものではあるが、多種多様な課税物品のすべてについて一律に小売行為の時点をとらえることは、課税技術上多くの困難を伴うので、徴税の合理化と課税の適正を期するため、個々の物品の種類、性状、市場流通形態等を考慮し、本件の各販売日当時の旧物品税法及び物品税法では、本件の貴石及び貴金属製品等を含む第一種の物品については小売課税方式を採用し、第二、第三種の物品については移出課税方式をとり、保税地域からの引取の場合は、右全種の物品について引取課税方式によることにしたものであり、また控訴人主張の法改正の変遷、経過も、原判決説示の如き我国戦後の経済状況の変化、市場流通形態の変転に応じて、その課税方式等を、当時の実状に則するように改めただけのものであつて、何ら如上説示の物品税の本質に変更を生ぜしめたものではなく、前記の各課税方式の差異は、上記のように、あくまでも課税技術上の手段方式の相違にすぎないものというべきであるから、ひとしく古物でありながら、控訴人主張の如く、一は課税対象とならず、他は課税対象となる場合があつても、これをもつて、控訴人のいうように、物品税法上その本質を異にするような法解釈というには当らず、控訴人の右主張もまた理由がない。

(三)  そこで次に、控訴人の(三)の主張について考えてみるに、物品税法第一六条第一項、第二一条第一項、第二四条等の規定は、控訴人のいうとおり、課税物品から特に古物を除外する場合を明示したものではなく、むしろその反対に、右各法条に該当する場合であつても、古物については同各法条所定の特例を認めない旨、すなわち、第一六条第一項の場合は、同法条所定の税額算定の特例を認めず、第二一条第一項、第二四条等の場合は、同各法条所定の物品税の還付をしない旨を規定したもの、換言すれば、古物については、右各法条所定の非課税物品扱いをしない趣旨を括弧書で明らかにしたものというべく、この限りにおいて、右各法条を課税物品から特に古物を除外する場合を規定したものとする原判決は、その説示の表現を誤つたものというべきである。

しかしながら、いずれにしても、右各法条が「課税物品」なる用語を用いるに当り、特に古物を除外する旨を断つていることは、その文言、規定の方式自体から明らかであるから、右各法条は、古物が物品税法上課税物品として取り扱われていることの根拠にはなつても、右各規定から古物は物品税法にいう課税物品ではないとの結論を引き出すことは困難といわなければならない。けだし、もし古物が、控訴人主張の如く、もともと物品税法上の課税物品に該当しないものとすれば、前記各法条の括弧書の如き規定は、そもそもその必要がないものというべきだからである。

(四)  控訴人は、昭和二八年五月三〇日法律第四一号(物品税法の一部を改正する法律)施行規則(昭和二八年五月三〇日政令第一〇一号物品税法施行規則の一部を改正する政令)附則第七項の規定からは、控訴人主張の如き理由で、旧物品税法も課税原因である小売が一物品について数回ありうべきことを予定して、その都度課税すべきことを要求していたとの解釈を引出すことは許されない旨主張するが、右附則第七項は、同第四項の申告物品を右政令施行後最初に小売した場合に限つて、第六項の申告をしたときは、特に物品税が免除されることを明示したもので、控訴人のいうような単なる注意的規定ではないのみならず、附則第七項にいう「最初に小売した場合において……物品税を免除する。」との規定からは、当然その反対解釈として、その次の小売からは物品税を免除しない旨の解釈が成り立ち、このようにみてくれば、旧物品税法も、原判決のいうように、課税原因である小売で一物品について二回以上ありうべきことを当然予定していたものと解せざるを得ず、控訴人の右主張もまた採用の限りではない。

(五)  また控訴人は、もし古物に対してもその小売毎に課税されるとすると、古物の消費者は、控訴人主張の如き事由で二重課税の被害をもろに受けることになる旨主張し、なるほど取引の実態においては、控訴人のいうように、業者は当該物品を転売する際の物品税のことを考えて、その適正な買受価格から右物品税相当額を控除した価格で買受けるようなこともあり得ないことではないかも知れないが、仮に、そのようなことがあつたとしても、それは、あくまでも物品の売渡人が、業者によつて、適正な買受価格より安価に買取られたという一取引事象にすぎず、法律上の物品税の負担者は、あくまでも当該物品を業者から新たに買受ける第二次の消費者であつて、右物品を業者に安価に売つた第一次の消費者ではないから、右取引事象を目して二重課税というには当らない。

(六)  さらに控訴人は、物品税法施行令第五二条第四項が、古物の小売についても詳細な記帳義務を要求しているのは、新しい課税物品を古物と称して販売することによつて、課税を免れようとする業者に対して、その販売先を確認することによつてこれを防止しようとするものであつて、右規定は、単に右施行令によつて、古物営業法第一七条の記帳義務を排除することのないようにするためのものではないと主張するが、控訴人の右主張は、もし古物が物品税法上の課税物品であれば成り立ち得ない性質のものである(なんとなれば、古物が物品税法上の課税物品であれば、控訴人主張の如き意味においての脱税防止の必要は存在しない。)から、控訴人の右推論は、控訴人が求めようとする、古物は物品税法上の課税物品ではないとの結論を、同結論を引き出すための根拠とするものであつて、論理上たやすくこれを首肯し難いばかりでなく、右施行令第五二条第四項の古物に関する規定は、これを、同条第一、第二、第五項の各規定の方式との関連並びにその規定の文言及び方式自体からみても、やはり、原判決というように、古物営業法第一七条の記帳義務に関する規定を考慮しての定めと解するのを相当とするから、右規定の存在から、控訴人主張の、古物は物品税法上の課税物品ではないとの結論を引き出すことは困難といわなければならない。

(七)  原判決三五枚目表第九行目の「却つて」以下裏五行目の終りまでを削除する。

二よつて、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三八四条によつてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき同法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(岡垣久晃 島崎三郎 新居康志)

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